学会長あいさつ(2019年12月)

朝岡 幸彦
(2019・20年度代表理事/会長)

私たちが生きている世界は、少しずつですが、着実に変わり始めています。

このように申し上げると、ポピュリズムの台頭やアメリカ合衆国のパリ協定離脱など、環境や平和、自由と民主主義をめぐる世界情勢を俯瞰して、楽観的に過ぎるとの感想を持たれる人もおられるでしょう。しかしながら、私たちの世界は着実に進歩していると考えざるを得ないのです。

2015年の国連総会で『持続可能な開発のための2030アジェンダ』が採択され、「持続可能な開発目標(SDGs)」が提起されました。SDGsは2030年までに達成をめざす国際的な目標であり、持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成されています。その中には「目標4.すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する」があり、持続可能な開発のための教育(ESD)も明記(4-7)されています。

このSDGsこそが、私たちの生きる世界が紆余曲折を経ながらも、直実に進歩してきた証拠であると考えることができるのです。「貧困」や「飢餓」などをゼロにすることを、100年前、50年前の世界の国々は具体的な目標として合意できたでしょうか。核兵器の廃絶への道のりは容易とは言えないものの、この66年間、世界戦争に陥りかねない大国間の直接戦争は起きていません。平和と民主主義、そして持続可能な社会を求める多くの人々の声は、着実に世界を変えてきているのです。教育には、このような民衆の運動に支えられた人類の進歩に対する強い信頼が必要であると思います。

1972年の人間環境会議(ストックホルム会議)で「環境教育」の重要性がアピールされて以来、環境と開発に関する国連会議(1992年/地球サミット)や持続可能な開発に関する世界首脳会議(2002年/ヨハネスブルグ・サミット)を経て、環境教育は「持続可能な開発のための教育(ESD)」とともに持続可能な世界を実現する上で大きな力となりつつあります。さらにいま、気候変動の抑制や生物多様性の保全、再生エネルギーへのシフト、脱プラスチックなど、地球環境をめぐる多くの問題の解決が迫られている中で、環境教育には大きな役割が期待されています。

いま、環境教育の研究や実践を通して、「世界を変えるための17の目標」とも表現されるSDGsのすべてのゴールの実現に、「だれひとり取り残さない」教育の視点と立場から積極的な役割を果たしたいと考えています。身近な地域での実践と研究を積み上げることで、世界とつながり、持続可能な世界を生み出すことができるはずです。

みなさんも、ぜひ学会の学術・研究・教育活動を通して積極的にご協力ください。